2011/09/04
師の役割
最近の内田樹さんのブログは、 とみに「ユルい」エントリが増えてるように思う。あれはわざと 隙だらけのところを見せてツッコミを誘っているに違いない。
「学ぶ(ことができる)力」に必要なのは、この三つです。繰り返します。
第一に、「自分は学ばなければならない」という己の無知についての痛切な自覚があること。
第二に、「あ、この人が私の師だ」と直感できること。
第三に、その「師」を教える気にさせるひろびろとした開放性。
その隙に小飼弾さんが誘い出されていた。
自分で、自分を教えたのである。
学びの根本は、そこにある、過去も現在も未来も。
人から学べることは確かにある。自分だけで考えていては一生分からないことが、一言交わすだけでわかってしまうこともある。誰からも何も学ばなかった人などこの世に存在しないだろう。
しかし、人からしか学ばなかった人などいないというのも、また事実である。
無垢さというのは、ありていに言えば師の色に染まりやすいということではないのか?
開放性というのは、「師の教えることは」なんて条件抜きの「なんでも吸収します」なのではないか?
「師から学ぼう」というスローガンは、文明人の最悪の生活習慣病ではないのか?
うーん、今回は、弾さんが相手のいないところに打ちかかってすっころんでる感じだなあ。
確かDavid Morrellの『オレンジは苦悩、ブルーは狂気』だったと思うけど、 こんなエピソードが出てくる。
主人公の回想。子供の頃、父親と森にキノコ取りに行った。別れてしばらく 探したけど全然見つからない。父親がやってきて調子はどうだと聞く。 見れば父親は既にかご一杯だ。「父さんはたまたまたくさん生えてるところを 見つけたんだ」と憎まれ口を叩くと、父親は「何言ってるんだ、いっぱい生えてるじゃないか」と 主人公の足元を杖で示す。主人公が目を凝らすと、 それまで落ち葉や枯枝しか見えなかった地面に、突如としてキノコが生えているのが見える。 一度気づくと、今までさんざん探し回っていた場所のそこらじゅうに、キノコが生えているのに気づく…
師ってのはこの父親のことだろう。
- キノコは既にそこにある。世界は、学ばれることを用意して、あなたを待っている。
- 実際に目を凝らしてキノコを見たのは主人公だ。 その意味では、人は自分で自分を教えるというのは正しい。
- でも、指し示してもらわなければ、多くの人は、偶然に頼るしかなくなる。 もちろん独力で正しい方法を見出す人はいるだろうけれど、そういう人にしたって 全ての分野において一人で何でも見つけられるということは考えにくい。
内田さんの言ってる「無垢さ」っていうのは、(その専門分野に関して)師が「ここを見ろ」と言ったら、 四の五のいわずに素直に見てみろ、ってだけの話だろう。
キノコの話では「見る」だけだから簡単そうだけれど、現実には 「現在持っている自分の考えに邪魔されて見えない」ことはよくある。 それに、見るというと受動的なようだが、実際の学びでは自分の身体や心を動かして 「(今まで想像もしなかったことを)やってみる」必要があることが多い。
弾さんは自転車を例に出してるけれど、これは筋が悪い。大抵の子供は、 自転車というのは練習すれば乗れるようになるものだということを知っている。 だから、師に示してもらう必要がない。 「やれば出来るとわかっていることをやって出来るようになる」のは 単なる練習にすぎない。たとえその練習がどんなにきついものであっても、 そこには学びの最も重要な要素が欠けている。
学びの最大のステップは、それまで自分に見えていた世界の外側に踏み出すことだ。 「自分にこんなことができるなんて想像すらできなかった」というようなことを 「やってみる」ことだ。今まで崖のように見えていたその先に足を踏み出すことだ。 ガイド無しに、自由にそれが出来る人はあまり多くない (いないとは云わないが)。
そして、自分には未知の領域でガイドを頼むなら、そのガイドの言うことに対して 自分の理屈をとやかくつけるのはご法度である。 自分の理屈の通用しない世界に連れて行ってもらおうっていうのに、 何やかやと理屈をつけるのは、結局自分の世界に止まっているに過ぎないからだ。 「想定の範囲内」を動き回るのは冒険ではない。
もちろんそこでガイドがヘマなら、怪我をするのは自分である。 信頼するに足るガイドを見つけることが重要だ。 ところが、そのガイドが信頼するに足るかどうかを自分で判断することは、原理的に不可能だ。 それが判断できるなら、既に自分はそっから先の世界を知っているってことだからね。
内田さんのエントリはそのジレンマを「直感」で済ませちゃってるんで、 胡散臭く感じるかもしれないけれど、そこは定義からして、 理屈でどうこう言える問題じゃないんだよなあ。
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