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2016/12/23

トランプのヤバさ

珍しく政治ネタ。4年後に読み返して杞憂だったなと思えることを祈りつつ。

大番狂わせの大統領選から1ヶ月半。 今週頭には選挙人投票があってトランプ次期大統領が正式決定した。 ひととおり選挙の分析が出た後、 リベラル勢からは、 ここからどう立て直してゆくかについての戦略や決意表明が次々に出ている。 (例えばBruce Schneier, これからの四年間における私の優先事項, yomoyomoさん訳)。 私の観測範囲にリベラルが多いせいもあり、皆が闘いに備えているような張り詰めた雰囲気を感じている。

でも、日本の報道や反応を見ていると、 「選挙戦では極端なことを言ってたけど、それ以外の公約にはまともなこともあるし、 いざ大統領になれば変わるんじゃないか」 「トランプ一人で何でも出来るわけじゃない、無茶な言動は優秀なスタッフが何とか止めるだろう」 みたいな楽観的な感覚もあるようだ。 トランプが過激な発言をするたびにリベラル系メディアが騒ぐのを、過剰反応しすぎじゃないの、 と感じている人も結構いるんじゃないか。

個人的には、ものすごくヤバい、と感じてる。

でもそれは、トランプの差別的発言とか、表現の自由への脅威だとか、 核武装強化発言だとか、そういう個々の動静ではない。

最近、トランプの側近の一人が 「彼(トランプ)の発言は文字通り(literally)取るんじゃなくて、象徴的に(symbolically)取るべき」と発言した。この一言にヤバさが集約されている。それを無邪気に側近が言ってしまうのがさらにヤバい。

実際、「国境に壁を作り、費用はメキシコに払わせる」とか「不法滞在外国人を全員追放」とか、 熱狂的支持者はともかく、大部分の人は文字通りそれを実行できるとは思ってなくて、 こういうのはキャッチーな煽りだと思ってるだろう。トランプはそういう煽りでメディアをひとしきり 賑わせた後で「やっぱやらないかも」「文字通りそういうことをやるという意味ではない」みたいに トーンダウンしたりする。裏付けの無いニュースや明らかに事実と反する情報を平気で流すこともやる。 要するに具体的な中身よりも、どう周囲が反応するかの方を重視している。 その点に関しては、かなり計算高い人物だと思う。

これが続くとどうなるか。

過去の発言に関して突っ込まれたら、 「あれは象徴的な意味で言ったのだ」といつでも逃げられる、ということだ。 言葉に対して責任を負わなくても良くなる、ということだ。

そして周囲も、毎回毎回の煽り発言に釣られるのにだんだん疲れてきて、 「彼はそういう人だから」で流すようになる。 で、発言が文字通り解釈できないから、 その発言が象徴するところの意味を忖度して周囲が行動するようになる。 トランプの意向に反する、と周囲が思う行動があれば、 先回りしてそういうのを抑圧するようになる。

でもトランプは具体的にそうしろという指示を出したわけではない。 行き過ぎがあれば「部下が勝手にやったこと」でその部下を切ればいい。 黙認していれば部下は承認されたと解釈して同様の行動を強化してゆく。 皆が、明示されない一線を探り合いながら行動するようになる。 その結果生じたことについて、上の人間は誰も責任を取らない。

(追記2016/12/24 23:04:18 UTC: もっと言っちゃうと、これ、 カルト内部で集団心理が形成されるのと全く同じプロセスなんである。 トンデモな教祖になぜ人がついてゆくか。 それをまるきり信じ込む人だけが信者になるのではない。 「あの発言は文字通りの意味じゃなくて象徴だから」 という前提を置くと、大抵のトンデモ発言は正当化できてしまう。 頭の回る人ほどそいういうのが得意だ。 各メンバーに、そのカルトに居つづける個人的な理由がわずかでもあれば、 トンデモ発言はそこを離れる理由にはならない。 そして誰かが発言に対する疑問を呈しても、 周囲はあらゆる正当化を使ってそういう疑問を潰しにかかる。 この罠に落ちた集団を内部からの力のみで変革することは極めて難しい。)

これが企業なら、数字で結果が出るから、 どうやったら市場にうけるかを探りながらうまく手綱を調節して、 最終的に損をしなければビジネスとしては成功であると言えるかもしれない。 しばしばトップに極端な人物を置いて 側近が実務をしっかり締めることでうまく回る場合もあるかもしれない。

損をだれかに押し付けて切り抜けることがあっても、 自分が常により大きな力を集めている限り、 損を被って去る人よりも寄ってくるサポーターの方が多くなる。 マイナスが大きくてもそれを上回るプラスがあればビジネスは回る。

けれど、国家の運営はそうはいかない。

「この州は税収に貢献していないから」とリストラすることは出来ないし、 トップダウンの方針が気に入らない奴は出ていけ、と言うこともできない。 結局うまくいかなかったから国を畳みます、というわけにもいかない。

言葉でもって方針を示し、それを国民から承認されることで、信託された力を行使する。 その原則が崩れてしまったのが、何よりもヤバい。

Tag: 生活

Past comment(s)

uoaaua (2016/12/26 17:31:57):

トランプ陣営は symbolically と煙にまいて失言の幕引き(撒き餌の回収)を図る。その手法を続けることで言葉は次第に意味をもたなくなり、陣営そのものの体質は純化され、責任の所在が曖昧なトンデモ集団化する(かも)。少なくとも向こう4年はその集団が国を率いる、やれやれ...と。

しかし着任後もその手法が通用するほどにトランプ熱はすさまじいのでしょうか?熱狂的な支持者は別として、続けるほどに(どの方面からも)冷たい視線を集めることになると思うのですが。とんでもカルト集団が跋扈しないよう、共和党主流派の巻き返しを願うばかりです。

shiro (2016/12/26 21:31:43):

共和党がトランプのm.o.に対して毅然と対応してくれたらいいんですが、「いざとなれば締めるけれどそれまでは利用価値があるから許容しておこう」的な態度を取ってるようにも見えるんですよね。ヒトラー台頭前の欧州周辺諸国の対応と重なるような。

発言に対するアカウンタビリティをないがしろにしていると議論が力を失うので、手綱をつけていざとなれば暴走を止められると思っていたらその綱がぼろぼろに腐ってた、みたいなことになりかねない。ファシズムは一人のevilが作り出すものじゃなくて、土台が弱くなってるところにたまたまはまる誰かがいれば成立するんじゃないかなあ。

uoaaua (2016/12/27 18:03:45):

たしかにおっしゃる懸念は同感で、野心家集団(さしあたっては陣営幹部や最終的に支持にまわった茶会勢など)におだてられ祭り上げられているうちに、何かのきっかけである方向に振り切れてしまったら、取り返しのつかないような酷い事を起こしそうで怖いですね。 日和見で暴走を止めるにはあまりにも非力に見えるかもしれませんが、それでも上下両院とも多数党である以上、共和党内部の非保守派(穏健派)の野心や良識に期待するしかないと思っています。(現実逃避のような淡い期待ですが、どうにかこうにか法案単位是々非々でうっちゃってくれないかなあと) そしてこのやり口が通用するのは選挙のお祭り期間までと信じたいです。1月20日以降は、アカウンタビリティに冷静な目が注がれ、議論を打ち消すようなヒステリックな二分化が鳴りを潜めてくれたらなあと思います。

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