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2008/08/27

『ミスト』のラスト

こちらこちらで 批判されてる映画評論家がいて、 好奇心でその人の映画評 をいくつか読んでみた。私もまるきり勘違いすることがよくあるので人の批判はできない んだが、『ミスト』評 (リンク先ネタバレ注意)でラストを「救済」としているのが気になった。 というのは、『蝿の王』を知らないとあのラストは救済に見えるかも、と思うからだ。 (あと、あのラストを「衝撃狙いの悪趣味な演出」みたいに言っている評も見たけど、 それもバックグラウンドを知らないせいだと思う)。 もちろん観客それぞれの背景によって解釈は色々あっていいんだけれど、 あれを救済で済ませてしまうのはあまりに勿体ないと思うので書いておこう。 できるだけ見た人にしかわからないように書くつもりだけど、 どうしたってラストに触れるので『ミスト』未見の人は注意。

『蝿の王』はもう古典なのでストーリー出しちゃっていいかな。 出しちゃうよ。ネタバレ嫌な人はここでストップ。 少年達を載せた飛行機が無人島に不時着し、大人がいない状況で 少年達のコミュニティが理性と秩序から次第に本能と混沌へと変貌してゆく様子を描く。 で、まあ最後には大人がやってきて少年達は助かる。

助かるのだけれど、助けにやって来たのは軍隊だ。 『蝿の王』小説中でわずかに触れられるが、外の世界では戦争をしている。 このラストの意味についてはGolding自身の言葉が的確だろう。 Stephen Kingは『Hearts in Atlantis』の中で『蝿の王』を出したときに この言葉を紹介している。

The boys are rescued by the crew of a battle-cruiser, and that is very well for them, but who will rescue the crew?

『蝿の王』の見事さは、「特殊な環境下での集団の変貌」を圧倒的な説得力を もって描いたのちに、「ローカルに見れば救出」「けれどグローバルに見れば、 救出者達もまた、同じ状態の集団の中にいる (そして読者もそうかもしれない)」 という一種のどんでん返しを、ひとつの瞬間でやってみせるところだ。

で、『ミスト』である。
父親の叫びに応えて霧の向こうから現れたのがアレだったことの意味は何か。
子供が怖れた "Monster" とは何だったのか。
果たして人々は救済されたのか。
果たして我々は救済されるのか。

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