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2010/01/24

『Just after sunset』 - A Joy of Recreation

I didn't want to write about answers, I wanted to write about questions.

一昨年に出たスティーヴン・キングの短編集。 往復11時間のフライトの友にと空港のスタンドで買って、一気に読んでしまった。

前にも書いたけれど、『The Dark Tower』シリーズ完結後の キングは、何かに「書かされている」という、 せきたてられる、あるいは憑かれている感じが無くなった、ように思える。 同時に、新しいことへチャレンジするむきだしの野心も影を潜めた。 本書でもいくつも新しい試みはなされているようだけれど、 そこに気負いはあまり感じられない。何より、キングはもう 「自分自身の二番煎じ」を全く恐れていないように思える。

何かを創る者にとってのひとつの障害 (もしかすると最大の障害) は、 成功した過去の自分の作品ではないだろうか。 あの時は創造の神が降りてきた。後から振り返ってもなぜ自分があれを書けたか わからない。けれども創作者でありつづけるには、それを越えるものを 創らなければならない。これはかなりおっかないことだ。 ついつい過去の成功パターンを踏襲したくなるけれど、 マンネリズムに陥ってジリ貧になるのもまたおそろしい。

本書に納められた短篇からは、キングの過去のいくつもの作品の エコーが聞こえる。ファンならばおそらく各短篇について、 類似ネタを使い同じような帰結をたどる、 過去のキングの作品の名前を挙げられるはずだ。

でも面白いのだ。 書いていて楽しんでいるのが伝わってくるような気がするからかもしれない。 また、ストーリーテリングの技術が円熟しているからかもしれない 読者を驚かせるような技術ではないけれど、安定していて、 全く障害なく読者をストーリーの流れに載せてくれる。

人生観を変えるような尖った作品はないので、キングを初めて読む人には あまり向いてないかもしれない。読みやすいけれど、「キングってこんなもんなの?」 と思っちゃうかも。でもキングの長年のファン、Constant Readerなら 間違いなく楽しめる。

個々の作品について言うと、"N." が素晴らしい出来だった。 これも、モチーフや形式はキングの過去の作品のいくつかと共通しているけれど、 ナラティブの強さはキングの最盛期を思わせ、 それでいて余分な贅肉を持たない勢いは若い頃の短篇のようだ。

RecreationはRe+Creationでもある。 つくることは、苦しいばかりじゃない。

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