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2010/02/23

アメリカと言っても広うござんす

米国で外国人が仕事するのに最大の障壁がビザであることには同意する。 他の国の話を聞いてみても米国がとりわけ大変なようだ。 ただ、ビザ関係は文字通りのケースバイケースであることに注意が必要だ。 個人のバックグラウンドやつながり、そして時期によっても 話がころころ変わる。このエントリに書いてることも、 今だと状況が変わってる可能性あり。 個々のエピソードはひとつのケースとして参考にはなるだろうけれど、 正しい情報は「移民弁護士に聞いてね」としか言えない。

以下、引用はすべてshi3zさんのブログエントリ 『で、実際に海外で働くとどうなるか』 より。

20代のうちにアメリカできちんと働くには理系四大卒が必須。中退だとビザすらもらえない。

アメリカは失業者対策として労働者人口を著しく制限している。

その結果、いわゆる「サラリーマンのような仕事(寿司職人とか俳優とか特殊なものでない仕事)」に就こうと思ったらビザかグリーンカードが必須。

僕は電通大中退なので、当然これにひっかかってビザを申請するまで非常に大変だった。

これにかかる弁護士費用は軽く100万円を超え、それでもビザが通るかどうかわからなかった

えーとまず、寿司職人や俳優でもビザは必要。単に違うカテゴリになって 取りやすさが変わるってだけ。まあでも話を広げすぎてもわかりにくいので、 以下ではプログラマのような技術者が単身 (日本の会社に所属して駐在とか、配偶者がビザ/GC/市民権持ちとかでなく) 米国就職する場合に絞る。

この場合、ほとんどはH-1Bというカテゴリのビザを取ることになる。 これは「米国で探したけど必要な技術を持ってる人が見つかりませんでした」という 前提で発行されるビザなので、「業務に関連する学部卒、もしくは同等の業務経験」 が必須である、というのは確か。

ここで「同等の業務経験」とは、目安として3年の業務経験=学部の1年と換算すると聞いた。 したがって2年大学に行ってそれなりに単位を取り、その後6年、関連する業界で 働いてれば、20代後半でH-1Bは取れる。 実際に取れるかどうかは弁護士の腕にもよる (上の換算もあくまで目安であって、 最終的には弁護士が「この人物の経験値は米国内でおいそれとは見つけられない」と 移民局を説得できるかどうかにかかっている)。 弁護士費用100万というのは私が聞いた中では破格に高いが(2000年前後では、$1,000〜$2,000くらいというのを良く聞いた)、 これも個々の状況によって話が大きく変わってくるので、一概には言えない。 準備についても自分で色々用意しなくちゃならなかったりした人もいれば、 働いていたことの証明のレターだけ用意してあとは弁護士におまかせ、って人もいる。

ただ、おそらく一番重要なのがタイミングだ。 上述の通り、「米国内で見つけられないので外国人を雇います」という建前であるので、 不景気で同程度のキャリアの米国人が職にあぶれている時期には非常に取りくくなる。 一方、好景気を予感すると企業はばんばん外国人を採り始めるが、 H-1Bの発行数は年間で上限が決められてて、これが埋まっちゃうとその年度は もうおしまい。年によってはこの枠が一瞬で埋まることもあれば、 年度の終わりまで埋まりきらないこともある。 2007年10月からの枠は受付初日で定数をはるかにオーバーして抽選になった。 一方で、2000年前後はハイテク産業の好景気のためにH-1Bの発行数が臨時に 大幅増になっていて (通常65000の枠が最高で195000まで拡大された)、 この頃はかなり取りやすかったはず。 つまり、枠の大きさと景気の具合によってビザの取りやすさには天地の差が出る。

ボスの気分を損ねたらその瞬間にクビ

日本では即日解雇は違法行為だが、アメリカでは合法。よほどのことがない限り、解雇に正当な理由は必要ない。

州によって微妙に違うようだけれど、基本的には "at will" と言って即日解雇可能。一方で被雇用者の方も予告無くその日に「辞めます」 といって辞められる。両者の力関係は景気によってどちらにも傾く。 不景気ならこの制度は雇用者にとって有利だけど、好景気で どこも人を探している時は被雇用者にとって有利。 まあ今みたいな状況だと被雇用者は大変だ。

ただ、馘を切るのにもコストがかかる。切るだけならいいんだけど、 その後に適切な人を探してこなくちゃならないからね。 経営が安定してる企業のオーナー社長なら一存で部下を馘にできるかもしれないが、 中間管理職が部下をバンバン馘切ってたら多分その本人が馘になる。 それに、レイオフが続くと社員の士気に露骨に影響する。 ましてや理不尽な解雇をや。

もうひとつ、転職が日常茶飯事なので、会社をまたいだ人脈の つながりが非常に大きい。会社は人を探す時にまず人脈に頼るし、 人が就職先を探す時もそう。なので気分で馘を切ってる職場があったとしたら、 業界内でどういう評判になるかは推して知るべし。 「それでも働きたい」と人が集まる会社なら、それは馘のリスクを 上回る魅力があるわけだ。

(なお、米国の「会社に対する帰属意識の薄さ」というのは、 この人脈からなるコミュニティへの帰属意識の濃さでもってバランスされている ような気がする。「かつての同僚」とは転職後も頻繁に連絡を取り合い、 カンファレンスがあればそこでプチ同窓会をやるなんてこともよくある。)

賄賂のやりとりは当たり前。仕事が欲しければメリットをよこしな

一部の大企業では取引をするに当たって担当者に賄賂を送ることが通例化していることがある。

日本ではいまどきその手のリベートを要求されることは滅多に無い。

これはそういう取引をしたことがないからわからない。 末端の零細技術者の身ではあまり縁のないことかもしれない。

ただし、シリコンバレーはどうかわからないが地方都市では 大きな取引はけっこう財閥みたいなものがあって、新参者が食い込むのは 大変だという話は聞く。

お前の代わりはいくらでもいる

僕の場合、給料は年棒制だった。僕は十分な給料を得ていたから給料に不満はなかったけど、他の人は例えば給料が10年間変わっていないなんていうこともあった。

人間は仕事に習熟すればそれだけ業務効率がアップするわけで、同じ給料なんておかしい、と思ったのだが、同じ仕事をし続けている限りは同じ給料であり、日本のように下積みを重ねてキャリアアップすることは最初から想定されていない。

給料は業務内容で決まるので、同じ業務内容なら何年勤めようと給料は 原則として変わらない。ここでの「業務内容」というのは雇用契約に 書かれている仕事の内容のことで、実際にどれだけ仕事をしたか、ではない。

雇用契約とはそもそもそういうものだ。「これだけの仕事をしてね」 「その報酬としてこれだけ払いますよ」という契約を結んでいるわけなんで、 それ以上の仕事をしてもらってもおいそれと追加で払うわけにはいかない。 給料を上げて欲しければ契約内容を更新することが必要だ。 (逆に、契約どおりの業務をこなせていない場合、 減給にするのにも契約の更新という話になる。)

ただ、会社は基本的に「この人がいるからこういう業務やってもらおう」という 考えではなく、「こういう業務が必要だから人を雇おう」と考える。 同一会社内で、ある部署でレイオフすると同時に別の部署で求人をかけたり することも珍しくない。 したがって、ひとつの社内で同じ系統の業務をこなしながら 契約内容を変えてゆくということはやりにくい。会社がダイナミックに 変わって行くのでもなければ、給料を上げる基本手段は転職ということになる。

「下積みを重ねてキャリアアップ」という考え方は米国にもあるけれど、 それはひとつの会社でずっと重ねるものじゃなく、ある会社で3年間ジュニアレベル で下積みをして、その経験を使って次の会社でインターミディエートレベルの 仕事に就き…というふうにキャリアアップしてゆくのがよくあるパターン。

但し、ビザワーカーは転職にあたって相手先企業にビザをとってもらわないと ならないので、この点で相当不利な立場になる。 H-1Bで働きながら、雇用者を通じてグリーンカードを申請するというのが 定番のパターンなんだけれど、雇用者経由のグリーンカード申請は何年もかかるうえ、 転職しちゃうとリセットされて最初からやり直しになってしまうため、 条件が悪くても転職できない、という立場におかれる恐れも多分にある。

シリコンバレーの特殊なメリットを盛んに述べる人は多いけれど、 正直、ビザが米国にとってのアキレス腱だなあと感じるなあ。 (だからベンチャー起業家ビザ (和訳)なんて話が出たりするんだろうけど。)

(追記2010/02/25 02:53:08 UTC): このエントリで「ビザ」と言っているのは、正式には 「非移民ビザ (nonimmigrant visa)」のこと。一方、いわゆる「グリーンカード」 は正式には「移民ビザ(immigrant visa)」と呼ばれる。 日常のコンテキストで「ビザ」と言えば非移民ビザのことだと思って良いのだが、 米国政府のドキュメントやニュースではグリーンカードのことが immigrant visaと表記されることが多いので注意。

Tag: Career

Past comment(s)

とおる。 (2010/02/24 23:58:01):

そういえばいま Twitter で Startup Visa っていうのが話題になってますね。

http://techcrunch.com/2010/02/24/startup-visa-jobs-green-card/ http://startupvisa.com/about/

shiro (2010/02/25 02:04:08):

ほほう。前から噂は聞いていたけれど法案として出されていたのね。ちょっと紛らわしいのは、そこで話題になってる「ビザ」は「移民ビザ」、つまりグリーンカードのこと。なのでハードルは高めです ($250,000以上の投資(うち$100,000は資格を持つエンジェルから)を受けることで2年間の時限つきビザ、2年後に条件を満たしてたらグリーンカード)。もともとグリーンカードには、$500,000-$1Mくらい投資したら取れる投資家カテゴリがあったんですが、スタートアップ向けに条件を緩くしたってことだと思います。(qualified Angelからの投資、というのが有効な選択メカニズムになる、というのはPaul Grahamが以前議論してました。)

私のエントリでの「ビザ」は「非移民ビザ」ですね。

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