Island Life

< らむ太とメタ認知 | マシンの命名法 >

2011/01/24

3D映画の本質的欠陥

Roger Ebertが「なぜ3D映画がうまくいかないか」に関してのWalter Murchからの メールを紹介していてとても興味深かった。

技術的に最大の障害は、やはりレンズの焦点調節と両眼視差の間に齟齬が生じること (両眼視差を変えることで距離感の違いを出しているが、眼の焦点はスクリーンという 一定距離にフォーカスしていないとならない)で、そのために編集上でも 2Dフィルムほど速いカット割りが使えない、というあたりも興味深かったが、 最後に挙げられているこちらの指摘の方が本質的かもしれないと思った。

And lastly, the question of immersion. 3D films remind the audience that they are in a certain "perspective" relationship to the image. It is almost a Brechtian trick. Whereas if the film story has really gripped an audience they are "in" the picture in a kind of dreamlike "spaceless" space.

3Dにすることで、「空間に対する視点」というのがより明確に観客に意識される。 これは観客に「対象空間を外から眺めている」という感覚を持たせてしまう。 2Dの場合、ストーリーが素晴らしければ観客はまるでその場面の中に入り込んだような 気分になるものだが、3D映画でのこの「客観視」の感覚はそれを阻害してしまう。

("Brechtian trick" というのは、ブレヒトがEpic Theatreでやったことで、 観客に「劇を観ているのだということを常に認識させる」ような演出をすることによって、 劇中で語られる出来事を批判的に観させる、という手法。)

もっとも、芝居の場合は観客の視点は固定されているにもかかわらず没入感は得られるわけで、 3D映画なりの演出手法というのが今後編み出される可能性はあるかも? でもそれは2D映画のものとかなり異なるかもしれず、2D版も出さなければ 興行的にやってゆけないという状態では全く新たな演出手法を試すのは非常に難しいだろうけど。

焦点/視差問題については、少なくとも近距離ならホログラフはその問題がないはずだから、 遠景と近景を別々に表示するとかで克服できないかな。 それにしたって今の2D映画とはかなり異なったものになりそうではあるが。 案外、生の舞台に近いものになったりして。

関係ないけれど、らむ太はこないだ3Dテレビのデモを観ていたく気にいったらしく、 しきりに「欲しい欲しい」と言っている。あの眼鏡を。どうやら3DTV用の眼鏡をかけると 絵本でも何でも絵が飛び出して見える、と思っているらしい。

まあ、裸眼立体視が普通にある状態で育った子供が何か作り始める頃には、 我々に想像もつかない表現方法が生み出されているかもしれないな。

Tags: 映画, 芝居

Past comment(s)

aj (2011/01/24 21:40:42):

Yeah, I think so. then, You can see the YouTube in 3D without glass. http://www.youtube.com/watch?v=gSs6DPqU_ig

shiro (2011/01/25 01:03:37):

舞台とか生のパフォーマンスは3Dと相性良いと思うんですけどね。

2Dの文法における視点移動はいろんな意味を持たされてて、例えば観客のアテンションがECUで表現されてたりする。その場合、観客は「心の中」で表情のディテイルを拡大してるわけで、本当に鼻息がかかるほど近くに居たいと思ってるわけじゃない、とか。まあこんな単純な話は作り手は既に考えてるでしょうが、もっと微妙なところで、映画の長い歴史で培われた文法と3Dとが干渉してるってことはありそうです。

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