2013/08/04
チケットノルマ
興業側が「主演女優が稽古に来ない」と舞台公演を中止したら、実は原作者が舞台化を許可してなかったとか何とかで揉めている話。著作権とか契約については実際のやりとりの詳細がわからないと何とも言えない。道義的には興業側がひどいという印象なんだけど、契約の話はまた別だから。
ただ、件の公演にチケットノルマがあったという話がいくつも出てきているようでびっくりした。さらに舞台関係と思しき人が「舞台でノルマがあるのは普通」とかつぶやいてたりしてもっとびっくり。
もちろん、アマチュア劇団とか自主制作の舞台で、自分たちでファイナンスして公演打ちましょう、という場合は、チケットノルマだろうが参加費徴収だろうが好きなようにやっていい。私も学生劇団でやってた時にはノルマがあった。ノルマがあるってことは、役者が出資者にもなるってことだから、出資者として運営に口を出す権限も得られるってことだ。「自分たちで作る舞台」ならそれでいい。
でも、プロの役者が仕事としてやる場合、チケットノルマはありえない。USでは俳優組合の契約によって明示的に禁止されてることが多い。それどころか公演日数に応じてキャスト・スタッフにただ券 (comp ticket) を支給しないとならないことになってる。 (非組合員でやる舞台の場合はそういう縛りはないけれど、きちんとした劇場ならもちろんノルマ無しでcomp ticketもちゃんとくれる。組合契約と違ってギャラはほんのわずかしか出ないけど。)
仕事、たとえば営業のノルマなんかとどう違うのか、と思う人がいるかもしれないが、 役者は演技をするために雇われたわけで、チケットを売るために雇われたわけじゃない。 役者の「仕事のノルマ」は稽古や本番において発揮されるべきで、 チケットを何枚売るかという心配をすべき人は別にいるわけ。
ノルマを課すと運営側には一定の現金収入が保証されちゃうんで、 インセンティブが歪められる。極端な話、役者だけ集めて放っといても金は入るわけだから。 オーディションを有料にしてはいけない (cf. 有料オーディション) というのと同じ原理。
日本の場合、USほど強力な組合が無いから事情が違うかもしれないけれど、だからこそ役者がみんなで「ノルマがある舞台には出ません(自分が運営側にも参加するのでない限り)」と言わないとだめだと思う。
なお、USの場合、劇場も時間で貸し出して収入を得るのではなく、チケットの売上の一部を取るという形なので、劇場側にもチケットを多く捌いて公演を成功させようというインセンティブがある。 (cf. 舞台公演の開演時間)
(追記2013/08/05 07:57:03 UTC): チケットノルマの話に対する興行側の反論が報道されてた。
「知り合いが"プロなら100人くらい呼ばないとね"と言っていたので、やる気のある人だけで固めたいと思ったから設けた」
「無理しないでいいと私が言っても、やる気を見せようと“500枚売ります”と言う人もいたんだよ」
報道で切り取られた発言だけを取り上げるのはバイアスがかかるかもしれないけど、 間違ったインセンティブのとてもわかりやすい例になってる。 演技に対するコミットメントを求めるべきなのに、 チケットを何枚売るかで熱意を{測る|見せる}人が集まってきている。 両者に相関があるとしても、後者は間接的な指標でしかないのだから、 そんなものに頼らずオーディション等で直接的に評価すればいい。
(追記2013/08/05 18:16:59 UTC): プロとアマの境界なんて曖昧なんじゃないか、という話もあるんだけど、ことチケットノルマに関してはそこそこ明確に線を引けると思う。金銭的な責任を一部でも負担するなら、興業側にその分の立場を持つということ。つまり公演の運営について口を挟める立場になるってことだ。小劇団では実際、劇団員は演技のことだけじゃなくて劇団を回してゆくことも考えないとならないしね。「チケットノルマはある。でも運営には口を挟むな」だったらそれはscam(詐欺、ぺてん)と判断してよい。
Tag: 芝居
たかしな (2013/08/05 21:28:35):
shiro (2013/08/06 10:05:49):
shin (2013/08/18 09:25:18):