2017/06/12
ニッチ
何となく昨日のエントリからの続きっぽい話。
仕事というのは、「金を払ってでもやって欲しい」という需要と、 「それなら自分ができるよ」という供給がマッチすれば発生する。 殊に役者のような、必要とされる需要の幅が極めて広い業種では、 ニッチな需要と供給が回ることがある。
先日、映画"Jo, The Medicine Runner"のADR (アフレコ)に行って来たんだけど、そこで監督に聞いた話が面白かった。
大勢がバックグラウンドで喋ってる、いわゆる「ガヤ」を"Walla"というのだけれど、 Walla専門の声優さんというのがいるのだという。 事前に要件を指定しておけば、その場面で飛び交うであろう専門用語や専門職の話し方、 訛り等を完全に準備してきて、監督の欲しいWallaを演じてくれるのだそうな。 例えば患者でごった返す緊迫したERの廊下、と指定すれば、 医療用語をずらりと覚えてきて医者や看護婦の口調を再現する。 ラストベルトの工場労働者でもニューヨークの上流階級のパーティでも何でもござれ、 となれば確かに有難がられるだろう。
さすがに毎日それだけしかやらないってことはないだろうから、 仕事として、あるいは仕事以外で、他の演技にも関わっているんだろうとは想像するけれど。 何かが必要とされている間隙を見つけて、そこにすぽっとはまれば、 作品づくりに欠かせぬ技能者として重宝されるようにもなる。
まあ、最初から狙ってそういうところを探すというより、 チャンスを活かしているうちにいつの間にか落ち着いてる、っていうようなものなんだろうけど。
演技の世界のようにやりたい人がたくさんいて頂点が華やかな業界は、 世間的には、めっちゃ才能あり努力しまくりの人々がバトルロワイヤルして勝ち抜いた一部が成功者となり、 そうならなかった人は不遇な下積み生活で辛酸を舐める殺伐とした世界、 なんてイメージを持たれてるかもしれない。
そりゃ厳しい競争もあるし、トップに行く人の才能や努力はすごいんだけれども、 そういうわかりやすい階梯の周辺には、それを支える広い裾野を持つ生態系が繁栄してるんだよね。 目立たなくても、「欠かせない役割」を果たせる人なら、居場所はあるし、酬われる。
そこらへんの原理は、どんな業界でもたいして変わらない。
Tag: 芝居
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