2013/12/27
サベツダー
人工知能学会誌の新しい表紙について、性差別の観点から批判が出てるという話について。
もう大人の対応である公式コメントが出ているので、 話としては収束してると思うんだけど:
こうしたネット上の反応について、編集委員長の松尾准教授は、次のように話した。
「ネット上で広く議論をしていただくのは有り難いと思っています。学会としては、女性を差別したり蔑視する意図はありません。ただ、そういう意見もあるときちんと受け止めて、今後の表紙デザインを考える上で参考にしていきたいと思っています」
自分は最初の批判を見た時に性役割の文脈で順当な(想定される)批判だなあと思ったんだけど、 批判への反論やそのまた反論を見てると色んなレイヤでの議論が入り乱れてて カオスになってた。
まあどのレイヤで議論するかは自由なんだけれど(感情に感情で返すとかも)、 差別の文脈を踏まえてない意見はどうも的外れに見えてしまう。 わざと文脈を外して茶化してるようにも見えない意見も多くて、 基本的な「議論の枠組み」に結構隔たりがあるんじゃないかと感じた。
自然科学系とか工学系にいると、相対化して抽象する、という操作を良くやる。 「○○が××しているのを描くのは○○差別だ」という命題を見たら、○○や××を変数にして 色々なものを当てはめて不変条件を見つけるとか。 なので、「じゃあ描かれてるのが男だったら男性差別になるの?」といった反応になる。 また、表現者と表現内容を切り離して議論する、という習慣もある。 誰が言ったかではなく、あくまで言われた内容のみを材料として考える。 なので「この表現がダメなら△△にあるあの表現はどうなんだ」という例を持ち出したくなる。
差別といった社会的な問題は対照的に、「誰が」「何について」「どこで」「いつ」表現したか、 という文脈が極めて重要になる。
今回の話では、女性型を描くか男性型を描くか、は対称な話ではない。 なぜなら背景にある歴史やステレオタイプが非対称だから。 なので、描かれるものを入れ替えたらどうなのよ、とする議論は的外れ。 入れ替えたいなら文脈ごと置換可能なものを持ってこないとならないけど、 それはなかなか難しい。
これが学会誌というそれなりに公共性が高い(少なくとも、
学会はどこも性役割について中立であるべきコミュニティとされてると思う)ところに
出てるってのも重要で、
中立性を要求されないコミュニティがやるぶんには全く問題ではないし、
個人的な見解や嗜好を表明することとも別の話である。
(なので、これは表現の自由とは直交する話。ここ重要。 (追記2013/12/31 01:43:57 UTC)完全に独立でないので「直交」は不適切。言いたかったのは、今回の文脈上での表現の是非を議論することは、文脈を外した一般的な表現規制の是非の議論につながらない、ということ。コメント欄の議論参照。)
誰が言ったかが問題の重要な一部なので、「そう言うお前も差別してるだろ」という反論はやっぱり
的外れ。主語は入れ替え可能な変数ではないのだ。
という前提を踏まえて、自分なりにこの手の批判の論理をまとめるとこうなる。
- ある固定観念 (それが現状の追認である場合も多い) があって、 それによって不利益を被っている集団がある。できれば不利益を減らしたい。
- 既に固定化されている役割を無批判に描くことは、 多かれ少なかれ固定化の強化につながる。
- その表現に必要性があるなら (例えば映画や小説などの表現で、現状をありのまま描写する必要がある場合) いいんだけど、選択の余地がある公共性の高い場所で、 わざわざ固定観念の強化につながる表現を選ばれるのは、困るのだ。
批判に対して反論するにしても、このロジックを押さえた上での議論じゃないと 話がすれ違っちゃう。 批判の目的は不利益の解消にあり、表現そのもの是非は二次的である、 というのもポイントで、不利益の解消を忘れて表現の是非だけ論じても意味がない。 (このロジックはまた、根拠ある批判なのか単なるヒステリックな表現刈りなのかを 判定するのにも使える。) 論点は、「そういう固定観念はあるのか」「どういう不利益があるのか」 「表現の必要性は」「公共性は」あたりになるだろう。
まあ、とはいっても固定観念というのは自分で気づけないから固定観念なんであって、 うっかりそれを言っちゃって批判を受けたら、「気づきませんでした、これから気をつけます」 っていうのが順当な対応で、人工知能学会はまさしくその通りの対応をしたわけで、 問題としてはもう収束してる。
自分としては、文脈を切り離す訓練を受けている人と文脈を重視する訓練を受けている人の すれちがいが際立つなあ、と思った事例だったので記しておく次第。
(追記2013/12/29 01:13:31 UTC)続き→こういうのはおもしろい
asb (2013/12/28 10:29:50):
こあら (2013/12/28 11:35:07):
shiro (2013/12/28 12:14:49):
kiya2014 (2013/12/28 12:50:19):
ts (2013/12/28 12:51:32):
kiya2014 (2013/12/28 13:02:18):
kiya2014 (2013/12/28 13:17:08):
shiro (2013/12/28 14:59:44):
shiro (2013/12/28 15:21:51):
こあら (2013/12/28 20:33:56):
shiro (2013/12/28 22:35:12):
こあら (2013/12/29 01:50:23):
shiro (2013/12/29 02:25:07):
こあら (2013/12/29 04:03:22):
shiro (2013/12/29 06:05:55):
shiro (2013/12/29 06:11:59):
こあら (2013/12/29 11:07:26):
shiro (2013/12/29 12:41:41):
こあら (2013/12/29 18:10:32):
shiro (2013/12/30 00:13:35):
shiro (2013/12/30 00:41:13):
こあら (2013/12/30 09:06:18):
shiro (2013/12/30 09:54:13):
こあら (2013/12/31 11:52:15):