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2012/03/16

Y Combinatorの7年

Paul GrahamがY Combinatorを始めた頃について書いていた。

シード段階---企業がまだ、2人の若者と初期のアイディアに過ぎない頃---に 小額を投資して育てるファームってのは今やたくさんあって、 このコンセプトが有効であることは広く受け入れられている。 それだけに、2005年当時そのアイディアが どう感じられたかを思い出すのは難しくなりつつあるかも。

外側から、そして現在の地点から振り返って眺めれば、 Y Combinatorはスタートアップのあり方を変える、野心的な試みだったと評されるかもしれない。 でも開始当初は全くそんなことはなくて、もっとずっと気軽な感じだった。 第一回の募集は 「学生向けの夏のプログラム」だったんだよね。 世界征服の野望を慎重に練り上げるというよりは、単なる思いつきで始めたようにさえ見える。

(もっとも、この「思いつき」がPaulの頭の中で結晶してくるまでに、何年かの潜在的な 準備期間があったことは無視すべきではないだろうけど。『ハッカーと画家』はY Combinator以前に書かれたわけだし)。

注目すべきは、多分、YCのアイディア自体ではなくて、 そのアイディアを思いついた後のアクションなのだと思う。

3月11日にエンジェル投資ファームを始めよう、と決意して、2日で $200Kを用意。 1週間ほどで第一回のプログラムのアナウンス。 この身軽さと、決めたことに飛び込む覚悟の良さ。

身軽なだけならただの無鉄砲だけど、Y Combinatorの強さのひとつは、 「実行して、結果を見て、方針にすぐ反映する」というサイクルを高速に回していることだろう。 当初は学生の腕試し的なコンセプトだったのが、翌年には経験を踏まえて「学部は卒業しといた方がいい」ってことになってるし (『学生のためのベンチャー指南---A Student's Guide to Startups』)。その後もプログラムを毎回調整していて、ただ漫然と同じことを繰り返しているわけではない。

象徴的なのが最近発表された、アイディア無しでの応募も可とするという試み。 起業において「アイディアは(それ自体では)価値が無い、実行が全てだ」と語る人はたくさんいるけど、最初のアイディアさえ無くても良いよ、というのはかなり大胆だ。 とはいえ、この試みだって単なる思いつきではなく、 Y Combinatorのこれまで経験に裏打ちされてるわけで。

こうも言えるかも。Y Combinator自体の成長過程が、Y Combinatorが良いと考えるスタートアップの成長過程を反映している。メタサーキュラーですな。

Y Combinatorの成功を見てそのアイディアを コピーしようとしているところはたくさんあるけれど、 コピーすべきは目に見えるアイディアではなく、アイディアと実行を回すこの メタなエンジンなんじゃないかと思う。そして、超循環エンジンを実装したら、 具体的に出てくる運営方針というのはY Combinatorとは全然違ったものになるかもしれない。

おまけ: ボストンのかつてのYCオフィス (2006年)。YCがシリコンバレーに拠点を完全に移したので、 ここは既に引き払われている。

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Tags: PaulGraham, YCombinator

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