Island Life

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2018/08/18

子供と読む児童文学 (6年生編)

昨年度にらむ太が学校の課題図書で読んでいたもののうち、印象に残ったものまとめ。 (以前のもの: 5年生編3-4年生編)


Island of the Blue Dolphins (Scott O'Dell)

19世紀初頭、主人公Karanaはカリフォルニア沖の小島に暮らしていたネイティブアメリカン。 小島の人々は漁で自給自足を送っていたが、 ある時外からやってきたラッコの狩猟者達と争いになり多くの死者を出す。 再び狩猟者達がやってくることを恐れた島民は、伝説に聞く海の向こうの土地へと移住するが、 Karanaは幼い弟と船に乗り遅れてしまう。それから子供だけのサバイバルが始まった。 実話を元にした物語。

サバイバル生活の描写が具体的でとてもおもしろく、 限られた舞台の中で出会いや別れも盛り込んであってストーリーの牽引力も強い。


The Sign of the Beaver (Elizabeth George Speare)

18世紀、メイン州にイギリス人入植者が領地を広げていた時代。

13歳のMattは父親と共に、何日も森の中を旅して新たに獲得した開墾地にたどり着く。 森を切り開き、最低限の小屋を建ててから、父親はMattに留守を任せて家族を迎えにゆく。 しかし父親は予定を過ぎても戻って来ない。 熊に小屋を荒らされ、見知らぬ入植者に騙されて銃を奪われ、 窮地に陥ったMattを助けたのはネイティブアメリカンの長老だった。 長老は、孫Atteanに英語を教えてやってくれとMattに依頼する。 Atteanやその一族と数が月を過ごすうち、Matt自身もネイティブアメリカンの生活について学ぶことになる。

単に侵略者vs被侵略者で割り切れない機微をうまく描いている。 Mattはネイティブインディアンの文化を理解してゆくが、 白人入植者とネイティブアメリカンが最終的には共存できないことを知らなければならない。

越境者となったMattがその後どうなったか、が気になる。


Riding Freedom (Pam Muñoz Ryan)

19世紀中頃の米国。「女性は女性らしく」という規範から外れた孤児の少女Charlotteが主人公。 当時の社会規範で将来に展望が持てなかったCharlotteは孤児院から逃げだし、 名前をCharleyと変えて男のふりをして馬の世話の仕事をみつける。 やがて優れた馬の乗り手となった彼女は、ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアを目指す。 当時の女性には閉ざされていた道を切り開いてゆくのが 歴史ドラマとして非常に面白かった。映画でも見てみたい。

Charlotte (Charley) Parkhurstは実在の人物で、 米国で女性に参政権が与えられる半世紀前に 実際にカリフォルニアで(男性として)投票した人物。


Chains (Laurie Halse Anderson)

奴隷である13歳の黒人の少女から見た、アメリカ独立戦争時のニューヨーク。 史実をたくみに混ぜ込んで、戦争と差別を背景にした手に汗握る冒険譚として読ませる。

これについては別エントリを書いた: "Chains"と差別の構造


The Witch of Blackbird Pond (Elizabeth George Speare)

1687年、カリブ海の島の裕福な家に育った16歳のKatherine (Kit)は、 庇護者であった祖父が亡くなり年配の男性との結婚話が持ち上がったのを嫌って、 コネティカットに入植した叔母夫婦を頼って旅をする。 途中で溺れそうになった子供を泳いで助けるが、そこで警告される。 女性は泳がないものだ。泳ぐ女性は魔女とみなされると。

入植地はピューリタンの街で全てが質素。子供も大人も労働にあけくれ、 規律は厳しく、召使いのいたかつての暮らしと大違い。 Kitも慣れぬ労働に苦労する。

街外れに一人住む老婆Hannahはマサチューセッツを追われたクエーカー教徒だった。 外れもの同士、KitもHannahの家では自分を出してくつろげる。二人は親しくなる。 しかし村に病気が流行し二人は魔女の疑いをかけられて…

外部者としてのKitの視点から見るピューリタンの入植地の社会構造と格差、 迫害されていたクエーカー教徒、野蛮とみなされた船乗り達、などの描写が興味深い。 当時の社会というだけでなく、現代社会の構造にも様々な対応を見出せるし、 ストーリー的にも後半の展開は楽しめる。 だが女性が主人公だとノリが悪いらむ太であった。


My Brother Sam is Dead (Christopher Collier and James Lincoln Collier)

これも独立戦争の話。Tory党主導の街で酒場を経営する一家の子供Timが主人公。 兄Samは16歳になって理想主義に燃えて独立軍へと志願する。 兄への憧れと、生々しい戦争の現実の間に挟まれるTimの成長を描く。

独立戦争は当事者にとっては内戦だったんだなあ、というのがよくわかる。 普通に暮らしていた近所の人同士が、どちらにつくかで揉めなくてはならないし、 一方で軍事力というのはどちら側であっても個人の思いなんか軽く吹っ飛ばしてしまう 圧倒的な力だ。 そして、どちらに占領されようと、住人は生活していかなきゃならない。

物語自体はぽんぽん事件が起きて話が転がるというものではなく、 むしろじわりじわりと背後に大きな動きがあるはずなのにローカルに何も起きないことがじれったい、 のだがそういうのが実際に戦争が起きている現場のリアルなのかもしれない。 良作だとは思うが、らむ太は途中で飽きていた。


Jonny Tremain (Esther Forbes)

1773年、ボストンで銀細工職人の下働きをしていたJonnyは、 いずれ職人の孫娘と結婚して店を継ぐことを当然と受け入れていたが、 事故により手が不自由になり人生が暗転する。 やさぐれかかった時にWhig党シンパの地元新聞社に拾われ、 アメリカ独立戦争へと続く騒乱に関わってゆく。

当時の一般人視点から描からた独立戦争直前のボストンの状況が非常に興味深いんだけど、 実在の人物が多く出てきて彼らがどの立場で何をしたのか知ってないと話を追うのが難しいかも。 らむ太的には主人公のスパイ的活躍とか戦闘シーン以外はあまり興味を引かれなかったようだ。


The Watsons Go to Birmingham - 1963 (Christopher Paul Curtis)

1963年。ミシガン州フリントに住む黒人の少年が主人公。 家は貧しく学校では上級生にいじめられしかし家族は陽気。 問題児である兄を母親の実家に預けるために一家は車でアラバマまで旅をする。 時は市民権運動の真っ最中。アラバマ州では人種間対立が先鋭化していた。 そして日常を揺るがす事件が起きる。

事件が何かは献辞で分かっちゃうんだけど、 むしろ前半の日常パートが面白い。 大きな公立小学校でのタフな学校生活というのは、 小さな小学校に通ったらむ太にとってはピンと来なかったかもなあ。


The Giver (Lois Lowry)

SF作品は課題図書では始めてじゃないかな。 らむ太はディストピア的なSF作品に興味を持ち始めてて、これも結構楽しんだようだ。

人間が平和と調和のうちに暮らすようになった未来。 感情は争いをもたらすものとして教育と薬物によって抑制され、 過去の記録は迷いをもたらすものとして封印されている。 子供は産まれてすぐからコミュニティの管理下で教育され、 観察された適正に基づいて12歳になった時に職業を割り当てられる。

主人公Jonasも職業の割り当てを心待ちにしていたが、 そのセレモニーで彼に告げられたのはコミュニティに一人しかいない特殊な役割、 "Receiver of Memory"だった。 コミュニティで唯一、過去の記録にアクセスし、その重荷を引き受け、 委員会が判断しかねる問題に直面した時にアドバイスをする役割。 Jonasはそれから、Giverとなった先代のReceiver of Memoryの下で、 過去の人類の歴史、その痛みや苦しみ、あるいは歓喜をひとつづつ受け取ってゆく。

Huxleyの "Brave New World" からきつすぎる毒気を抜いた感じだけど、 テーマとなるヒトの抱える矛盾についてはより純粋に蒸留されてるように思う。

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