Island Life

< Stravinsky | LA >

2012/08/08

『Full Dark, No Stars』

「人の心の暗部を描く」って言い回しは良く使われるけど、キングが本気出すとこうなるのか! キングの作品はこれまでも人の心のダークサイドを扱ってきたけれど、 どこかに希望を残す話も多かった。 ここに収められた中短篇5編は容赦がない。本人があとがきで書いているように、 キツい(harsh)話だ。けれどもそこには真実がある。あとがきより:

It [The art of story-fiction] is the way we answer the question, How can such things be? Stories suggest that sometimes---not always, but sometimes--- there's a reason.

本を閉じた後でも、心に何かが刺さってて、考えずにはいられない。

『1922』 - 恐ろしい犯罪の告白。因果が自分に返ってくる、という類型の話を キングはいくつか過去に書いているが、この「取り返しのつかなさ」具合が、 1920年代の米国の田舎の孤独感の描写と合わさって絶望的。 書き出しがまた巧みで、最初のパラグラフを読んだらもう最後まで読まないわけにはいかない。

『Big Driver」 - ストーリーテリングとしては本書中で一番。 前半の描写がキツくてついてゆくのが辛いけれど、後半の展開がすごい。

『Fair Extension』 - 昔のキングの作品がエコーする話だが、 これも容赦ない。人間の心の暗部という点では本書中最も暗い話かも。

『A Good Marriage』 - これだけは読後感にかすかに希望があるかも。 どんなに近くにいてどんなに長く連れ添っても、決して分からない部分というのが 誰の心にもある。でもそれが見えてしまった時にどうすれば良いか。

『Under the Weather』 - ペーパーバック版に追加で収録された短篇。 短篇の妙味(キング曰く「暗闇でのつかの間のキス」)が味わえる作品。 とても悲しい味だけど。

それにしてもキング、もういい歳だというのに、テーマの掘り下げはますます深く、 技法はさらに冴えてきて、限界を広げようとしているのが感じられる。 作り手はそうあるべきだ、と言うのはたやすいが、一生実践するのはたやすいことではない。

Tags: , King

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