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2011/05/12

素人の自由な発想

またRTされてきたやつについつい突っ込み。

http://twitter.com/hiroshiishiguro/status/68849345889439744

@hiroshiishiguro: 素人のように考え、玄人のように実行する。これが研究の極意と、米国の著名な日本人教授は言う。そうだと思う。素人の何の制約もない発想が物事の本質を捕らえている可能性は高い。

「素人のように…」は、専門分野の発想にとらわれずに探索空間を広く取れ、 ということだろう。それはおおいに頷ける。でも、後半の 「素人の何の制約もない発想が物事の本質を捕らえている可能性は高い。」 にちょっとひっかかった。

専門分野の典型的な発想の外側に「本質」がある場合、 「玄人のように考え」ている人は探索範囲が狭まっているので「本質」を見つけられない。 自由な「素人」ならば「本質」を見つけられる可能性がある

けれども、自由な「素人」はまったくランダムに発想するから、「本質」でない発想も大量に生じる。

従って、

  • 膨大な「素人」を集めればそのうちの誰かの発想が「本質」を突いている

という可能性は高いけれど、

  • ある特定の「素人」が自由に思いついた発想が「本質」をとらえている

可能性は限りなく低い。

石黒浩氏が「素人の何の制約もない発想」で意図してたのは前者だとは思うけれど、 元発言だと後者のようにも取れるよなあと。140文字の制約って難しいね!

さらに、発想が本質的なものであったかどうかというのは実行してみないとわからないので、 たまたま「本質」をとらえた「素人」本人は、それを実行できない限り、自分が本質を捕らえたかどうかの判断はできない。

なので、

「素人の何の制約もない発想が物事の本質を捕らえている可能性は高い。」

というのは、実行して確かめることができる人間が言うなら意味があるけど、 実行できない人間が言っても意味がない。石黒浩氏は実行する人なので意味があるけど、 この言葉だけ一人歩きするのも考えものだなあと。

発想に関しての指針なら、この言葉が好きだ。

  • Any idea is a good idea if you do it well.

素人か玄人か、で判断するのではなく、うまく実行できたかどうか、で判断すればいい。

前にも似たようなことを書いた。

技芸とサイエンス

理論を学ぶことによって自由な発想ができなくなってしまうのではないか、と懸念する人もいる。「素人の方が既存の概念に縛られない発想ができる」ってやつだ。そういうこともたまにはある。宝くじを当てるのに理論は必要ない。何かを作ることをただ趣味でやりたいだけなら、ひたすらスロットマシンのレバーを引くように続けるのも良いだろう。退屈はしないし、時々小さな当たりがあるし、ジャックポットの可能性だってゼロではない。

Tags: 表現, ものつくり

Past comment(s)

少年H (2011/11/23 03:53:50):

初めまして、Twitterから来ました。この元ネタが載っている、金出武雄教授の「素人のように考え、玄人として実行する」という本を読んだことがあります。金出先生はまさにそのようなことを書いていて、素人要素と玄人要素が一人の人間の中にないとダメだと言っていました。素人と専門家を混ぜたチームを作ってもダメだと。

もう一つその著書で言っていたのは、博士課程にしばらくいる学生くらいだと、素人的な発想と経験値が程よく混ざっていい研究をしたりするとのことです。まあでも、いつまでも大学院生でいるわけにはいかないのですけどね。

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